劇場が爆笑の渦、けど最後には感動も
ブロードウェイミュージカル「アベニューQ」
撮影:伊ヶ崎 忍
 2003年のブロードウェイ初演の「アベニューQ」は、そのシーズンの最大の衝撃だった。そして7年後(!)に初来日公演を果たしたこの作品は、古さを微塵にも感じさせず、さらに新鮮な衝撃を日本の観客に与えている。

パペットがセサミストリートのように人間と共存する世界のミュージカル。可愛らしいパペットたちの姿をみると「またホリデーシーズンの子供向けミュージカルか」という印象を受けてしまうが、それは大きな間違い。もしも映画のように年齢制限があるならR指定間違い無しの大人の為のセサミストリートなのだから。

プリンストン(パペット)という大学を卒業したばかりで、将来に夢を抱く青年が主人公。彼がNYのアベニューQという荒れ果てた地区に引越してくることから物語がはじまる。アクは強いが気のいい隣人に囲まれて、彼は人生の「目的」を探し求めて奮闘するのだが色々な困難が待ち受けている…というのが大まかなストーリー。

この作品の素晴らしさは、パペッティアの名演技だ。顔や姿は隠さずにパペットと一緒に表情を作り、歌って演技をする姿を観ると、はじめは人間かパペットかどちらを観たら良いのかどうか戸惑ってしまう。しかし、次第にパペットと役者の表情が一体化してしまうから不思議だ。

楽曲と歌詞も素晴らしい。そのまま教育テレビで流れていても違和感がないほど素直で美しいメロディラインなのに、歌詞の内容は「インターネットはポルノの為」、「他人の不幸は蜜の味」、「みんな少しは差別主義者」など、大人の風刺が効いていて、このミスマッチが心地よい。特に「紙一重しかない」は、この作品をただのコメディとは異質なものにしている名曲で、『「愛」と「時間の無駄」には紙一重しかない』と生きることの本質を観客に考えさせる。

アメリカンジョークは日本人には向かないという声を聞くが、この作品は単なるアメリカンジョークの寄せ集めではない。深刻に聞こえるかもしれないが、「生きていくことの大変さとそれを克服するためのヒント」をキャッチーなメロディと可愛いキャラクター、そして日本人ですら思わず大爆笑してしまう「アメリカンジョーク」で提示してくれるのだ。

アベニューQは、スケールは大きくはない舞台だが、巨額の製作費を投じたどんな大作にも負けない輝きと魅力があるミュージカルだ。
ブロードウェイミュージカル
「アベニューQ」
12月 15日 (水) ~ 12月 26日 (日)
東京国際フォーラム ホールC